小金井市の固定資産税が少ない理由?

小金井市の固定資産税について時折いわれることとして

 ①学芸大とか公共用地(課税できない土地)が多い

 ②容積率が低いので容積率を上げれば固定資産税を増やすことができる

 ということがあります。

 ここではそれがいずれも間違いであることを示します。

 ①についてはちょっと考えてみればわかりますが、例えば明日から多磨霊園が全部小金井市のものになったとすると、非課税の土地の割合は増えますが、一人当たりの固定資産税は変わりません。土地の面積当たりの固定資産税とか持ち出す人もいますが、あまり意味のない指標です。

そもそも土地にかかる固定資産税・都市計画税は市民一人当たりでみるとそれほど少なくありません。平均より高く10位ぐらい。当たり前かもしれませんが、住宅地以外の割合が多い市や都心に近い市の順位が高くなっています。これは住宅地は固定資産税が1/3~1/6に減免されているため。かといってこれから商業地や工業地を増やすことは難しいので、これ以上急に増やしていくのはないものねだりともいえませす。

 経年的な推移でいうと小金井市は順位が上がっています。都内から工場が転出し住宅になっていくという傾向の中で、住宅地としての価値が高いところ(国立市なんかもそう)の順位が上がっています。なのでそもそも「土地の固定資産税が少ないことが小金井市の財政が苦しい理由」には最近はなっていないと思われます。

2番目の容積率が低いので容積率を上げれば固定資産税を増やすことができるという点です。

議員の中にも「都市計画の遅れにより容積率が低いので財政が苦しい。容積率をあげれば財政がよくなる」という人がいます。

そもそも容積率が低いことは都市計画の遅れなのでしょうか?

・容積率とは同じ土地の面積に建てられる建物の床面積の割合を表すもので、都市計画でその最高限度が定められています。

・同じ土地で多くの床が確保できるので、便利な場所に多くの人が住み・利用できるような建物を建てることができます。

  一方で高い建物が建てば周辺への影響も大きくなります。

 なので、それぞれの街がどういう役割であるべきか、どういう環境であるべきかによって、あるべき用途地域と容積率が決まります。

 なので、容積率が高いから進んでいる、低いから遅れていると評するのは適切ではないと思われます。

「容積率が低い=都市計画が遅れている」と言っている都市計画の専門家は寡聞にして知りません。

 

 単に容積率だけではなく、街のありかた、あるべき姿に比して不自然な容積率指定になっているかどうか、ということなのではないかと思います。

 小金井市が商業地域や工業地域が少ないのは確かですが、住宅系の用途から商業地域や工業地域に変わるということは駅前の再開発などを除いてはほとんどないので、都市計画が進んだからと言って商業地域や工業地域が増えるわけではありません。

 もともとターミナルとなる駅や商業集積、田園地帯に工場が昔進出したというような経緯がある場所が商業地域や工業地域となっており、今から小金井市が商業地域や工業地域が増えることはあまり期待できないので、だから財政が苦しいというのはないものねだりといえます。一族に金持ちがいないから家計が苦しいといっているようなものなのではないでしょうか。

そもそも容積が増えれば地価があがるかというところにも疑問があります。

固定資産税の基準となるのは地価だからです。

土地の固定資産税がどれぐらいの水準にあるかを知るためには路線価図を見ればだいたいわかります。固定資産税の評価額は路線価の7/8が基準となります。

 

 一般論でいえば、容積率が大きいほうが、あるいは、用途制限が緩いほうが固定資産税(=路線価)が高くなります。なぜならば容積率が高いほうが貸家にする場合にも貸せる面積が広くなるので、その分土地に出せるお金が増えるという理屈になるからです。

 ところが実際の路線価図を見ると容積率の差ほど、路線価図の差がないことがわかります。

 例えば、小金井街道を小金井駅から北に行くと、商業地域500%から近隣商業地域300%、第一種住居地域200%へとなっていきますが、路線価をみると38万円/㎡→35~34万円/㎡→29万円/㎡へと下がっていっていますが、容積率の差ほど地価の差はありません。

 住宅地については本町2丁目~緑町5丁目あたりを見ると、容積率が200%の地域が27万円/㎡、容積100%の地域が28万円/㎡と逆転しているところもあります。

 

 なぜでしょう?

 一つの要因としては、「容積率を緩和するだけで大きい建物が建つわけではない」ということがあります。

 小金井市の住宅地には高度地区という高さを制限する規定がある他、一定以上の日影を敷地外にかけてはいけないという規制もあります。特に東西に道路が走っている部分は道路に沿った部分だけ容積を緩和しても、北側の日影規制が厳しいと実際にはそれほど建てられないといったことが起こります。

 もう一つは、大きい建物を作れるとしてもそれだけの需要があるかということ。貸してお金をとるにしても需要がなければ価格は下がるわけなので、相応の需要がなければ容積の制限だけを緩和してもあまり意味はないことになります。小金井に多く建設されているマンションをみるとまだ需要はありそうですが、長期的もそうかどうかはわかりません。

 

 環境の問題もあります。住宅地としての価値は床をどれだけ取れるかだけではありません。周辺環境の良さが大きなポイントとなります。

 極端な例でいえば、田園調布駅前の住宅地は容積率は80%ですが、路線価は85万円/㎡ぐらいだったりします。

 そこまで極端ではないですが、国立の一橋大学の裏あたりは容積率100%で路線価は35万円/㎡ぐらいだったりします。

 小金井より不便で、特快も止まらないのに住宅地としての価値は国立の方が高いと評価されているわけです。

 

 これは街の環境とブランドによるもので、そう簡単にできることではありませんので、長期的に取り組むべき課題と思いますが、いずれにせよ、単に容積率を上げれば地価が上がって、固定資産税が増えるといったものではないことがわかるかと思います。

 特に住宅地においては、容積よりもその住宅地の環境やブランドが重要です。

 それらはすぐに形成することはできません。

 小金井市においては低層住居専用地域が65%、中高層まで含めると85%以上が住居専用の都市計画になっています。それらの価値を上げるためには容積をあげることではなく、環境を高めることの方が重要と考えられます。部分的にあげるためではなく、構造を変えようとするならばなおさらです。

 今後人口が減少して床そのものの需要が少なくなるとすると、その量よりも質が問われるようになると思います。そのような中、いたずらに容積だけを増やすのは意味がないと思われます。

ところで容積率はどのように決められてきたのかを少し説明しましょう。

 容積率の概念がでてきたのは昭和43年に全面的に改正された都市計画法からでした。

 それまでは商業地は31m、住宅地は20mといった規制であったかと思います。

 容積率は用途地域とともに東京都が定めていました(過去形)。5年ごとに各市町村からの要望を受けて全面的な用途率や容積率の見直しをかけていました。例外的に再開発などで個別に変えることもありました。

 ただしこれは平成16年ごろまで、それ以後は随時見直すこととしました。

 その場合には地区計画(その地域のまちづくりの目標を定め、壁面の後退などの制限をかけること)をかけることとセットになりました。

 平成24年度からは用途地域や容積率は市町村が決定する権限を持つことになりました。

 ただ、好き勝手に決めてよいわけではありません。

  ・用途地域等の指定方針、指定基準を定めなければなりません。

   小金井市でも定めています。東京都が定めていたものとほぼ同じですが。

  ・都との協議が必要です。同意までは必要としていませんが、専門性で勝る都の担当者を説得するには相当な理論構築が必要です。

  ・地区計画とセットになります。

  地区計画を作るプロセスとしては通常

   地元でのまちづくりの機運

    →協議会や勉強会の立ち上げ(市が支援)

      →まちづくりのルールの具体化

       → 都市計画の形にする

   といった形になり、スタートから都市計画の形になるまでは5年ぐらいはかかります。

 そもそもどの範囲を地区計画の範囲にするか、ルール(建築物などの制限)をどうするかを決めるのはそう簡単にはできません。

 単に容積率をあげようと思ったからすぐあげられるような簡単なものではないのです。

 そして都合よく容積率だけあげられるものではなく、まちづくりの考え方をもって、他の規制のセットとして実現するものなのです。